はじめに
この本は、NHK特集『謎の絵師・写楽』の取材制作のプロセスを再現しつつ、日本美術史上最大の謎の解明を試みたドキュメンタリーです。
このころの私は、歴史の定説を覆す番組を、10本くらい制作して、学者たちを驚かせてやりたいという野心をもっていました。たとえば、縄文土器、万葉集、出雲大社・・・。
若かったから? いや、そうではありません。飢えていたからです。
そして、本書をこのプログに公開する意図は、あのころと同じ〈飢え〉を、今、しきりに感じてならないからです。
飢えは、満たしてやらねば、やがて身を滅ぼします。満たすには、書くしか方法がありません。書くために、自分に火をつけるために、本書を読み返し、公開し、今のこの飢えをしっかりと確認し、さらに刺激したかったのです。
オッと、いきなり脱線しましたが・・・本書は、版画家池田満寿夫氏との共著です。
以前から彼のファンであった私は、番組を企画する最初の段階からコラボレーションを呼び掛けたところ、予想通り、二つ返事で快諾。
その後のスリリングな展開は、本文でお楽しみいただくとして、制作中ずっと感じていたのは、氏の底知れぬ〈飢え〉の深さ大きさ。ヒリヒリとそれは絶えず私に迫ってきて、実に実に幸せな数ヶ月でした(えっ? はやく本文を始めろ? はい、はい、ただ今)。
300ページ近い本書のうち、私が約220ページを第一部として、池田氏が残りを第二部として執筆。ここでは、私が担当した第一部のみの公開ですが、完全に独立した作品として完結しているので、充分に楽しんでいただけると思います。
お待たせしました。ではまず、目次から、どうぞ。
目次
第一部 写楽追跡 川竹文夫
1 挑戦
出会い 出発進行
2 忘れられた絵師・写楽
写楽登場 ドイツ人クルトの写楽評価
『浮世絵類考』に残るわずかな手がかり
式亭三馬の記録 三馬の書き込み
3 謎の絵師・写楽
写楽捜しの日々 “写楽の謎を積み上げろ”
キラ摺りの謎 間版の謎
写楽絵には秘画がない なぜ異版が多いのか
たった一○カ月の制作期間の謎
4 30人の写楽
写楽説さまざま 石森正太郎さんの歌麿説
酒井藤吉さんの谷素外説
福富太郎さんの司馬江漢説
福富写楽説の問題点 写楽説一覧表
5 写楽追跡
作品こそ手がかりだ 写楽は自画像を描いている
画家と自画像 対決
写楽はダメになったのか これは消去法だ
6 科学の目が負う
試行錯誤 絵を見る人の目を追え
ヴィジョンアナライザー 実験本番
写楽は前期だけを描いている!
アンバランスの謎 一期と二期の違い
写楽は素人だ 写楽絵は1期28点だけ
ターゲットは定まった
7 役者を洗え
作品分析の先へ進め!? 役者別「写楽捜査ファイル」
給金を調べる 新たな謎
8 阿波徳島の写楽たち
写楽の里 写楽の墓
もう一つの写楽の墓
9 斎藤十郎兵衛説再考
十郎兵衛説復活 もう一つの十郎兵衛説
阿波能役者への疑問
10 「東洲斎写楽」という名前
ペンネームの謎を解け さまざまな解釈
十洲という名に何かある!
11 「東洲」発見
『明和伎鑑』の中に「東洲」がみつかった!!
俳名東洲とは何を証すのか
写楽は四人の役者の中にいる
人物特定の手がかりは失われた
12 自画像を捜せ!
暗礁が続く「写楽絵」分析に帰る
自画像に秘められた画家の心理とは
30の目、30の鼻 浪速の写楽
13 これが写楽だ!!
悔恨 一つの目、そして一つの鼻が……
自画像発見! 写楽は役者の中村此蔵だ
14 写楽=此蔵説の検証
写楽=此蔵説の証明――五つの鍵
蔦重はなぜ素人を起用したのか
なぜキラ摺りを使ったか
なぜ1期28点で筆を折ったのか
そして写楽は忽然と消えた
結 写楽はやはり此蔵だった
写楽は「楽屋を写す」 写楽の人物比定はできた
【これが写楽だの最新記事】