2013年04月05日

学会誌より その5


パラダイムそのものが桎梏となる時、急速にパラダイムシフトが進展

 さて、となれば「パラダイムシフトはどのようにして起こるのか」。本稿のテーマは、ついにその解答を得ないまま宙をさまようのであろうか。
 何しろ、仮に新旧互いが科学的客観的データを持ち寄って議論を重ねようにも、上に見てきたように、そもそもそのようなものは存在しないのだから、議論は互いの信念をぶつけ合うことに終始するだろうから・・・。
 クーンは、このことに触れてあらまし次のように考えている。
 科学者たちが〈旧〉を捨て、〈新〉に乗り換える契機として、互いの優劣を比較した上での判断がある程度存在するだろうことは認めつつも、そのように合理的な理由だけでは、パラダイムシフトは起こらないのだと。
 では、どのようにして? 彼はここでも極めて斬新な指摘をする。
 パラダイムシフトは、〈旧〉に属する科学者自らにとって、パラダイムそのものが、桎梏、つまり自らを縛る手かせ足かせになったとき急速に進展するのだと。
 ガン医療の〈旧〉世界には、今、まさにこの桎梏が広がりつつある。そう感じるのは、私だけではないはずだ。
 パラダイムが有効に働いているとき、そこに属する科学者共同体にとって、それは堅固なシェルターとして守ってくれる。
 「ガンは無限に増殖する」というパラダイムは三大療法の(見せかけの、ではあったが)正当性を世間に広く深く認知させることに成功。彼らの科学者としての良心と誇りを満足させ、経済的繁栄をも保証してくれた。
 が、しかし。
 今、〈旧〉は、それを信奉する彼ら自身を苦しめ始めている。かつては守ってくれたパラダイムが、逆に自らを傷つけようとしている。
 三大療法だけでは「治せない」ことが、彼ら自身の眼にも、明らかになってきたからである。
 当学会副理事長の寺山心一翁氏はかつて、海外を含めて271人の医師に、「もしあなたがガンになったとしたら、抗ガン剤を使うかどうか」という聞き取り調査をした。
 すると「使う」と答えたのは、ただの一人。残りの270人は「使わない」だったという。
 今も日々、自分を信じて目の前に座るたくさんの患者さんに行うその治療を、当の医者自身がまったく受けるつもりがないとは・・・何たる矛盾!
        (つづく)